2-2. 世界のカタチが変わる

2-2-4. 同時並行で進む「集中」と「分散」



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「集中」と「分散」が同時に進む
  • 世界の枠組みは、米国を主軸とする「一極集中」から「多極化」、さらには盟主不在の「無極化」、「個」を主体とする緩やかなグループへと変わっていく。国内でもこれと同じようなことが起こる。つまり、東京を中心とする「首都圏集中」から、「地域分散」が本格的に始まるということである。特徴的なのは、地方への分散と並行して「中核都市への集中」もまた同時に起こることだ。全体として見れば「分散」と「集中」という一見矛盾するような現象だが、これは既に世界的なトレンドになっている。
  • 「集中」と「分散」が同時並行で起こっている背景には、携帯電話やインターネットの普及がある。どこにいても情報入手がしやすくなった。そして「情報格差」が薄れたことで、地方にも投資しやすくなった。だが地方でも、投資はさまざまなインフラが整った都市部に集中することになる。都市部には投資が集まり、それが雇用を生んで人が集まってくる。さらに、人が増えることで交通機関や建設、サービス業などが活発化して、それが新たな雇用を創る、という好循環が生まれる。
  • 地域分散と都市集中は、携帯電話やインターネットなど「情報ネットワーク」(情報・カネ)と、高速道路や鉄道網、飛行機などの「交通ネットワーク」(人・モノ)という2つのネットワークによって可能になったものだ。前者は「情報」や「コト」の流通網であり、後者は「モノ」の流通網としてビジネスの両輪である。この2つのネットワークがそろったことで地方でも首都圏に近い条件でビジネスが可能になり、分散するのは必然なのである。「集中」と「分散」は今後さらに進むだろう。
  • 「集中」と「分散」が進むことで、「地域」が経済を実質的に動かすという傾向がますます強まる。実際、世界経済は「国」ではなく「地域」が主体となって動いている。例えば、米国では州によって税率も異なる。中国では地域ごとに地方政府が置かれ、自律的な経済運営が行われている。EU構成国の人口や経済規模は、日本で言えば「県」レベルの規模でしかない。インドはもともと地域によって文化や言語から違う「藩王国」の集合体である上に、イギリスが植民地時代に「分割統治」政策をとったことで独立後も地方の力が強い。今でも経済運営の大半は地方主体で進められており、実態は「連邦制」に近い。
  • 金融市場はグローバル規模でつながり、インターネットでかつてないほどさまざまな情報が手に入るようになった。自由貿易主義によって、人とモノの出入りが見違えるほど活発になった。例えば新潟の企業が国際的な取引をしたいと思っても、東京一極集中の国土デザインでは、成田空港を経由して新幹線でアクセスすることになる。そのため、移動だけでも何時間もかかる。よりスピーディで効率的な取引を求めれば、世界経済において地域同士で直接結びつくことは「必然」なのである。
新興国の交通の大動脈は「高速鉄道」へシフト
  • 新興国では、経済成長と共に鉄道網、航空網の整備が過去に例がないほどの急ピッチで進められている。その中でも注目すべきは中国とインドだ。人の移動にしても物流にしても、量の基礎となるのが人口であることを考えれば、両国が抱えている潜在需要は計り知れない。特に、現在の中国は世界のものづくりの中心的な存在となっており、既に膨大な量の物流と人の移動が発生している。そのため、高速道路の整備と共に鉄道網と航空網が整備されることは、ビジネスを活性化させる要因となるだろう。
  • 今後中国やインドでも、トラックやバスが交通手段として重要な役割を果たすことは疑いようがない。だがそれらは決して「主役」とはならないだろう。中国の国土面積は、ロシア、カナダに次ぐ世界第3位の広さであり、自動車によって移動/輸送できる量には限界がある。そのため、自動車を「大動脈」とする交通システムを構築するのは現実的ではない。移動距離を考えれば飛行機がベストではある。だが飛行機では輸送量が限られ、輸送コストも高くつく。
  • 中国では高速鉄道路線を重視しており、各地で活発に建設が進められている。高速鉄道の総延長距離は2016年9月には2万kmを超え、世界最大規模となっている。「中長期鉄道網計画」によると、2025年には約3万8000kmとさらに2倍近く延びる見通しである。
  • インドも既に世界トップクラスの鉄道網を保有しており、現在は主要路線の高速化を進めている。特に注目されるのは、ムンバイとアーメダバード間を結ぶ500kmの高速鉄道路線である。ムンバイは人口約2200万人とインド最大の中心地、一方のアーメダバードも約700万人を抱え、綿織物工業などが栄える都市である。この高速鉄道が完成すれば、インド経済の動脈と呼ぶべき基幹路線になるだろう。日本と中国が受注を激しく争った結果、日本の新幹線方式の採用が決まった。
「道州制」への移行は必然
  • 日本では、近い将来「道州制」への移行が必然として進むことになる。経済の単位が国から地域になることはグローバルな変化であり、日本だけ例外でいることは不可能だからだ。例えば、グローバル企業がアジア地域にコールセンターを置く際に、検討する対象となるのは「中国か/日本か」ではなく、「上海か/福岡か」という「地域」である。地域単位でそれぞれ特徴を持たせ、魅力を高めていくことが世界経済の中で不可欠なのである。
  • 「道州制」の是非を抜きにしても、日本でも東京「一極集中」から「地域分散」は既に自然の流れとして進んでいる。日本の総人口は減少しているが、地域ごとに見ていくと、大阪や名古屋、札幌、福岡など、中核都市では逆に人口が増え続けている。
  • 港湾や道路、空港といったインフラ整備までを考えると、県単位では規模が小さ過ぎるし財源も限られる。世界が「地域」で結ばれる中で日本が生き残るためには、経済単位を中規模にくくり直す必要がある。世界の変化と歩調を合わせて、行政や経済運営のためのシステムを構造的に変えるためにも、国よりも小さく、県よりも大きい「道州」に経済単位をくくり直す「道州制」への移行は、避けては通れないものだ。遅くとも2025年ごろには、「道州制」に基づいた都市づくりや交通インフラの整備が始まる可能性が高い、と私は見ている。
「モーダルシフト」と「インターモーダル」
  • 先進国の物流や人の流れは、クラウドによって今後ますます活発になるだろう。「ネットワークに代替されるため、物流市場が減少する」と考える人は少なくないが、決してそうではない。ネットオークションなど、最終的にはモノを物理的に動かさなければならないネットサービスは多い。物流はこれまで以上に即時性が求められ、配送範囲も世界規模に拡大する。それに伴って、交通渋滞や大気汚染、エネルギーの逼迫など、さまざまな問題が深刻化すると予想される。これらを背景に、今後「モーダルシフト」と「インターモーダル」が進んでいくと私は予測している。
  • 「モーダルシフト」とは、貨物の輸送手段を「飛行機やトラック」から「鉄道や船舶」へなど、エネルギー効率の高い輸送手段にシフトする動きである。化石燃料の使用量を削減するための現実的かつ有効な方策だからだ。特に「鉄道」は、エネルギー効率の高さと大量輸送能力で世界的に再評価されつつある。鉄道で人間1人を1km運ぶために必要なエネルギー量は、飛行機の1/4、自動車の1/6程度で済むといわれている。今後、原油価格が不安定になれば、エネルギーの確保やコスト競争力といった点で、鉄道の優位性にますます注目が集まるだろう。
  • 欧州は鉄道網が最も発達している地域である。都市間を結ぶ長距離列車鉄道のほか、トラム(路面電車)や地下鉄など幅広い分野で鉄道が利用されている。それでも貨物輸送に関してはトラックがシェアの大半を占めていたが、ドイツ、イギリス、スイスなどでは鉄道貨物輸送量は近年増加の傾向にある。
  • 米国でも大規模な鉄道網の再整備計画が進められている。米国政府は高速鉄道整備に対し、経済再生策である米国再生・再投資法で80億ドル、また2010年度予算教書においても5年間で50億ドルの財政支出を計画するなど、高速鉄道に対して史上最多の投資を予定している。これに対して日本は、2013年2月に安倍晋三首相が訪米した際にはリニアモーターカーの技術協力をオバマ大統領(当時)に直接提案するなど、新幹線を含めて売り込みを強めている。イタリア、ドイツ、中国なども米国への輸出を目指しており、激しい受注競争が繰り広げられている。
  • 米国が鉄道整備を急ぐのは「脱石油」を真剣に考えざるを得なくなってきているからだ。現在の米国の交通システムは、自動車を主体とするものである。だが原油の確保や価格上昇のリスク、環境問題への対応などを考えると、近い将来には、これの見直しを余儀なくされる。その一環として、米国はこれから鉄道網の整備を本格的に進めることになるだろう。
  • 米国が直面している問題は、程度の差はあれ、他国でも同じことが言える。特に新興国では、近年自動車が急速に普及している。それに伴って交通渋滞や大気汚染も深刻化しており、例えば中国ではPM2.5による大気汚染が世界的に注目されるほどの問題となっている。その主な原因の一つは、自動車の排出ガスとみられている。タイの首都バンコクでは渋滞は日常化しており、交通システムは麻痺に近い。現状を放置したままでは、経済発展の支障になるのは明らかであり、今後「モーダルシフト」が進むのは確実だろう。
  • 「インターモーダル」とは、ビジネスのスピード化や合理化に対応するために、これまでバラバラに考えられていた鉄道、船舶、自動車を、それぞれの特徴を生かして複合的に用いるというコンセプトである。これは交通システムにおける「全体最適」と言えるだろう。都市部における交通システムをトータルに考えることで、コストや輸送効率だけではなく、エネルギー効率の改善も期待できる。各交通機関もそれぞれが使いやすくなる。
  • インターモーダルの進展に伴って、最も大きな変革を迫られるのが自動車メーカーである。都市集中が進んで都市生活者が増えれば、公共交通機関は採算が取りやすくなるため、さらに充実する。都市部では運送手段としての自動車の必要性がますます失われていく。それを背景に、「カーシェアリング」(自動車の共同所有)など自動車を「サービス」として利用するライフスタイルが急速に広がるだろう。