2-2. 世界のカタチが変わる

2-2-3. 新グローバル資本主義、広がる経済格差



2-2-3a

「南北問題」 ~先進国と新興国の経済格差
  • 20世紀、先進国では主に工業、新興国は主に農業による食料生産や資源供給を行うという、国際分業が続いていた。その結果、先進国と新興国の間で大きな経済格差が生まれた。この経済格差は、「南北問題」と呼ばれ、1960年ごろから指摘されてきた。
  • 先進国は、一般的に1人当たりGDPが3万ドル以上である。先進国の人口は約10億人で、世界全体(75億人)の約13%にすぎない。残りの87%は新興国と途上国である。新興国の1人当たりGDPは、中国が約8100ドル、インドは1600ドル(それぞれ2015年)にすぎない。国全体の経済規模は大きいが、1人当たりで見るといまだ「途上国」の域を出ていない。
  • 先進国では、これまで新興国が食料や資源を供給するのは「当たり前」のように考えてきた。だが資源を輸出する立場から見れば、それは決して当然ではない。資源などを輸出するのは“身を削る”に等しく、まして安く買い叩かれて輸出するのは“略奪”のようなものだ。それを続けてきたのは、ほかに外貨を獲得する手段がなかったからにすぎない。
  • だが近年、自由貿易とグローバル化を背景に、どこでも同じようにビジネスができるようになってきた。生産設備の機械化も進み、新興国でも技術、資金、情報などが自由に手に入るようになったことで、工業製品が作れるようになってきた。その仕事は単純な組み立てや部品生産から始まり、今やパソコンや携帯電話、自動車、太陽光パネルなど幅広い分野へと広がっている。
クリエイティブ中心、新グローバル資本主義へ
  • 安さを武器にする新興国製品の追い上げによって、先進国メーカーの多くが価格競争に苦しんでいる。これから競争がさらに進んでいく中で、工業でマニュアル・オペレーションで対応できる分野は、大半が新興国にシフトしていくだろう。つまり、これからの工業生産の中心が新興国になるのは必然ということだ。
  • 一方、先進国におけるビジネスの中心は、金融や技術・知財など、クリエイティブなビジネスが中心になっていく。これからの先進国ビジネスはマンパワーに頼らないもの、言い換えれば「不労所得」が中心へと変わっていく。先進国の人口は中国やインドなどに比べると相対的に少ない。人件費が高く、高齢化のスピードは速い。労働集約型のビジネスから脱却することが至上命題になっていく。
  • 2-2-3b

  • 技術や知財などを生み出す「クリエイティブ」には、幅広い分野にわたる最先端の専門知識や情報、そして「センス」が必要だ。人材育成が不可欠であり、そのためには長い時間がかかる。特に「センス」は、洗練された文化や伝統などがあるからこそ、環境の中で身に付けられるものである。これらは新興国は容易に追いつけない。
  • もう一つ、先進国のビジネスで大きな柱になるのが「投資」である。根底にあるのは、人が少ない/高齢化するならば「お金に働いてもらう」という考え方である。先進国としての強みは豊富な資金力である。特にクラウド・コングロマリットは、「投資」は本業の一部として行うようになる。国内外の有力な技術やサービスなどを取り込み、グローバル規模で「マーケットプレイス」の構築を進めていくことになる。投資分野は、先進国だからこそできる特権的なビジネスと認識されるようになっていく。
  • 先進国では、工業分野がすべてなくなっていくというわけではない。詳細は[2-5-1. 「モノ作り」から「モノ創り」へ]で解説するが、高度なスキルやノウハウが必要で、先進国でしかできない「ものづくり」はたくさんある。先進国メーカーの多くは、「モノ創り」で活路を見いだすことになる。数量や安さを競うのではなく、付加価値の高さを追求するものへと変わっていくということだ。
  • 工業分野でも投資は重要な役割を果たすようになる。先進国の国内ではクリエイティブを生かした「モノ創り」に特化、コストダウンを図るためにもオペレーショナルな作業(モノ作り)は新興国で行う「分業体制」が一般的になる。生産拠点の設立、現地でのビジネスを一緒に創り、収益をシェアするため、工業分野でも「投資」は日常的なビジネスの一部になっていく。
  • 先進国において投資は、グローバル規模で、さまざまな形で、日常的に行われるようになる。金融所得はマンパワーによらないものであり、一部の先進国との経済格差は今まで以上に拡大していく。「新グローバル資本主義」は、従来の「南北間格差」とは全く次元が違うものだ。先進国と新興国との経済格差、さらに言えば、先進国の中でも富裕層との格差は将来的にも埋まることはない、と私は予測している。このような格差を前提として、社会全体のバランスをどのようにとっていくか、さまざまな分野で新たな仕組みが模索されるだろう。
世界のマーケットは「先進国」と「新興国」で2つに分かれる
  • これからのグローバル市場は、「先進国市場」と「新興国市場」という、価値観の異なる2つの世界に分かれていく。
  • 政情不安を抱えている一部の国を除けば、途上国は軒並み高い経済成長を続けている。成長率が10%を超える国も珍しくない。だが[2-2-2. デフレスパイラルのゆくえ]で解説したように、世界人口の4割近くを占める中国やインドでこのまま高い経済成長率が続いたとしても、将来的にも「先進国」にはなれない。それ以外の新興国も同じく、大半は1人当たりGDPで5000~1万ドル程度にとどまることになるだろう。
  • 新興国市場の特徴を一言で言えば、単価が1/3~1/5くらいの安いものが普及価格帯であるということだ。自動車を例にとると、日本で自動車を買うとなると、一般的な車種でも200万~300万円くらいは必要だ。軽自動車でも100万円以上はする。それに対して例えばインドでは、低価格車として話題になったタタの「ナノ」2代目は40万円弱で買える。これはテレビや携帯電話などでも基本的には同じだ。カテゴリーは同じであっても、価格帯はもちろん、求められる機能や品質などは、別物と言ってもいいほど違う。必要なモノが既に一通りそろっている国と、必要なモノすら足りていない国とではニーズが違うのは当然だ。
  • このような低価格な商品が登場した背景には、新興国が自力で工業生産できるようになったことがある。商品の値段が安くなったことに加え、経済成長によって購買力が高まり、国内消費が急増している。[2-2-1. 「カネ」から「モノ」へ ~塗り替わる世界の勢力図]で解説したように、これまで一握りでしかない先進国が食料や資源、そして商品の大半を消費してきた。だが、これからは残りの9割近い人たちが加わり、世界全体で消費する時代が既に始まりつつある。特に食料やエネルギーは「ぜいたく」という要素が加わることにより、人口増加を上回るスピードで消費が増加し、「消費爆発」とも呼ぶべき状態が始まるだろう。
先進国市場は「マイノリティ」になる
  • 先進国の人口は、欧州が約5億人、米国が約3億人、日本が約1億人など、トータルで言えば10億人程度である。世界全体で見れば1割強にすぎない。未来を考える上で留意すべきは、「世界のスタンダードが変わっていく」ということ、そして「先進国基準の商品はマイノリティ(少数派)になっていく」ということである。
  • これまでは先進国で流通しているものがすべてであり、それが世界標準であった。だが、これからは中国やインドを筆頭とする新興国市場が形成され、圧倒的な規模で商品が流通するようになる。そして、その商品こそが世界の主流になっていく。 つまり、先進国が今持っているテレビやパソコン、携帯電話、自動車という概念の方が、世界では「マイノリティ」になる。
  • グローバルビジネスを展開する企業の多くは、先進国向けと新興国向けと、カテゴリーは同じでもスペックの異なる商品を用意するのが当たり前になっていくだろう。どれほどハイクオリティな商品であっても、現実的に買える値段でなければ意味がない。「価格とクオリティはトレードオフ」というのが世界の常識であり、最高性能のモノが必ずしもベストとは限らない。
インドの本格的な消費が「サステイナビリティ」の契機に
  • 今後、先進国で懸念されるのは「原材料の確保が難しくなる」ということだ。新興国の多くは、自らの力で部品や製品を生産できるようになってきている。従来のように、付加価値が低い「資源」のままの形で他国へ供給する必要はないのである。自国の工場で原材料が不足するような状態になっても他国に資源を輸出し続ける、ということは常識的に考えてもあり得ない。それが食料やエネルギーなど、国民生活に直結するようなものであればなおさらだ。少なくとも、これからは「お金さえ出せば当たり前のように買える」という状況ではなくなってくる。
  • 資源やエネルギーを確保することは国家の存亡にかかわる問題であり、安易な妥協はできない。これから資源の争奪が徐々に激しくなり、政情不安が高まりやすくなっていく。サステイナビリティは「世界の安定と平和」という目的と強く結びつくようになり、社会全体を「エネルギー転換」や「資源循環」へと向かわせる大きな原動力になるだろう。
  • 新興国市場の立ち上がりと共に「消費スタイルが大きく変わる」ことも予測できる。これまでの先進国では、例えば自動車は3~5年で、携帯電話は毎年のように買い換えられてきた。だが、新興国市場でも同じような消費スタイルになれば、資源需給は瞬く間に逼迫してしまう。特に、これから中国市場に加えて巨大なインド市場が立ち上がってくる。その影響は極めて大きい。この10年間で、インドの1人当たりGDPは現地通貨で3倍、ドルベースでは2倍に増えている。インドの高度成長をきっかけに、一つの商品を長く使う、消費一辺倒ではなく資源をきちんと循環させる、というトレンドが世界全体に広がっていくと私は予測している。