2-2. 世界のカタチが変わる

2-2-1. 「カネ」から「モノ」へ ~塗り替わる世界の勢力図



2-2-1

米ドルを基軸とする自由貿易
  • これまで世界経済の中で価値のよりどころとなっていたのは、「米ドル」(=カネ)であった。しかし、これからは米ドルの価値は絶対的なものではなくなる。それどころか、カネの価値は相対的に低下し、経済の中心は「モノ」へと移り変わっていく。
  • 米ドルがこれまで「基軸通貨」であることができたのは、石油や食料、鉱物など、何でも買える「万能の通貨」だったからである。だが今後、世界の枠組みは「米国一極集中」から「多極化」の時代を迎える。政治的にも経済的にも、米国の地位が相対的に低下するのは避けられない。米国の世界的な地位は「環太平洋地域」のリーダーにすぎなくなる。それどころか、ドナルド・トランプ氏の米大統領就任を契機に世界はリーダーを失い、世界は「無極化」と呼ぶべき新しい時代に向かっていくだろう。
  • EUやTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などは、多くの国が集まって関税を撤廃し、自由貿易圏を拡大しようという「面」の世界である。それに対してトランプノミクスは、国益を最優先に、国を単位にそれぞれ二国間交渉(FTP)で決めよう、いわば無数の「線」で新しい秩序を創ろう、という考え方である。イギリスのEU離脱、フランス、イタリア、ドイツなどで極右政党が台頭するなど、ここにきて自由貿易圏はほころびを見せている。「自由」という言葉は美しい響きだが、それは「弱肉強食」の裏返しでもある。同じ条件で戦えば、強い者がさらに強くなるのは当然だ。「自由は格差を拡大する」という現実に世界はようやく気付き始めた。中長期的にはEUも統治システムが変わり、「個」(国)を主体とするゆるやかな連携に変わっていく、と私は予測している。
  • 米国の弱体化は米ドルに対する信頼性の低下、さらには基軸通貨が多様化することを意味する。今後は米ドル、ユーロ、元、ルーブル、中東マネーと、それぞれ地域ごとに経済圏が形成され、どの通貨で何(資源・技術など)が買えるかが変わってくる。絶対的な基軸通貨が失われることは、「カネ」の価値が全般的に不安定になるということでもある。
  • 第2次世界大戦後の冷戦時代に、米国の主導によって「IMF-GATT体制」が創設された。GATT(関税および貿易に関する一般協定)は、関税や輸入障壁をできるだけ取り除き、自由貿易を推進させるための国際協定である。一方のIMF(国際通貨基金)は、自由貿易を円滑にするために国際取引で米ドルを使うことを推進する金融機関である。冷戦終結により米国の一極体制が確立した結果、米ドルが世界の基軸通貨となり、国際通貨として決済に使われるようになった。
  • このようなルールが保たれることは、各国にとっても国際取引をする上で都合が良かった。各国は米ドルを持っていれば石油や金属、食料など、あらゆるモノを買うことができるようになったからである。例えば石油の場合、中東ではなくWTI(West Texas Intermediate)というテキサス州の相場が世界の取引相場となっている。金相場にしても、昔はロンドンが中心だったが、現在はニューヨーク市場になっている。農産物はもともと米国が強いため、基本的に米ドル建てで取引が行われている。
  • 米ドルが「基軸通貨」となったことで、国際取引では米ドルが必要になった。そのため、諸外国は「外貨準備」として米ドルを国内で保有するようになっていった。このことは米国に多大なメリットをもたらす。プリペイドカードの未使用分と同じで、前払いしたものの実際には使用されなかった分は発行元の利益(退蔵益)となるからだ。それが基軸通貨のうまみである。できるだけ制約をなくして“自由”に貿易すれば、経済的に一番強い米国が最も有利だということもある。米国が「自由貿易」を推進したのは、自国に都合の良い国際ルールだったからにすぎない。
経済価値のよりどころは「カネ」から「モノ」へ
  • 近年米国の国際的な地位が経済的にも軍事的にも低下したのは、新興国が成長してきたことによる相対的なものである。先進国中心だった消費も、世界全体に広がっている。これまで食料や資源、エネルギーの供給を担ってきたのは主に新興国である。それを使って先進国が商品を生産して自ら消費する一方、その一部を新興国に輸出するというのが世界経済の構図であった。先進国の人口はおよそ10億人、世界全体の約15%にすぎない。一握りの先進国が消費をほぼ独占していたのである。
  • 今後、新興国の経済成長と共に、あらゆるものの需要が急拡大を続けていく。資源は輸出を続ければいずれなくなる。新興国も国内経済の成長によって、国内需要は拡大の一途をたどっている。そのため多くの国では、資源の輸出に抑制をかけ始めた。いわゆる「資源ナショナリズム」である。国益を考えれば、国内消費を最優先に考えるのは当然のことだ。従来のように、「新興国が食料や資源を輸出する」という常識は通用しなくなっていく。
  • 米ドルをはじめとする「カネ」の価値が落ちる一方、「モノ」に対する需要は、経済成長による「ぜいたく」も加わり、幾何級数的に拡大する。その結果、食料や資源、エネルギー価格は中長期的には上昇の一途をたどることが予想される。金融危機後、主要国が軒並み金融緩和によって通貨流通量を増やしたことも、カネに対する信頼性を低下させる要因になるだろう。
  • このようなトレンドは基本的には今後も続いていく。それは世界経済の中心が「カネ」から「モノ」へシフトすることを意味する。今後、資源に恵まれた「持てる国」の発言力はかつてないほど高まっていく。具体的には、ロシアや中央アジア、ASEAN、アフリカ諸国などである。これらの国々は、経済ブロックを形成する上でも中心的な存在になっていく。自由貿易圏は、域内の貿易自由化だけではなく、「資源の囲い込み」という性格を持つようにもなる。「資源の囲い込み」は資源価格の上昇を加速させるだろう。