2-1. 未来を創る3つのメガトレンド/ビジネス潮流の変化

2-1-4. 「トリプル・ベロシティ」 ~ビジネス潮流の変化



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「トリプル・ベロシティ」とは?
  • ビジネスには、「商流」(コト)・「物流」(モノ)・ 「金流」(カネ)という3つの基本的な流れがある。そして今、ブロードバンドによって、これらの潮流が同時に、しかも一気に変化し始めている。この3つのビジネス潮流が今、スピードは3倍に、しかもバリエーションも3倍に増えながら一気に変わり始めているのである。これらを総称して本レポートでは「トリプル・ベロシティ」と呼ぶ。
  • ベロシティ(velocity)という言葉は、日本語では「スピード」という意味を持つ。もう一つ、音楽の世界では「諧調」という意味合いでも使われる。スピードが上がるだけではなく、幅(バリエーション)も増えるという意味で「ベロシティ」という言葉を使っている(ここで言う“3倍”はあくまでも比喩としてである)。
  • 想像してみてほしい。もし、世界中どこでもコスト0で、商品を瞬時に運ぶ「テレポーテーション」ができたら、ビジネスはどれだけ変わるだろうか? でもこれは“おとぎ話”ではない。ブロードバンドによって、デジタル化できる商品やサービスであれば、世界中どこにでも、コスト0で、瞬時に届けることができるようになってきたのである。「デジタル化できる商品やサービス」とは、例えば、映画や音楽、書籍、教育などのコンテンツやサービスである。さらに金銭のやりとりも、インターネットを通じて、たとえ遠く離れた場所だとしても、今やリアルタイムで行える。現金書留はもちろん、ATMに行く必要もない。「トリプル・ベロシティ」は、既に始まっている「現実の未来」なのである。
  • 同じネットワークでも、ブロードバンドは従来の“インターネット”(ナローバンド)とは別次元と言っていい。ナローバンドは必要に応じて接続するネットワークである。やりとりできるデータも「文字」や「写真」が中心である。それに対して、ブロードバンドでは映像や音声を扱うことができる。そして「常時接続」なので、さまざまな商品を「サービス」として提供できるようになった。
  • これからの社会では、ブロードバンドによって企業と顧客、人と人がそれぞれ「つながる」のが当たり前になる。従来はチャネル販売をメインに、どれだけ「手離れ」よく販売するかを考える企業が多かった。「つながる」が前提になることで、企業と顧客の関係性が変わる。それはマーケティングやビジネスモデルが根本から変わるということでもある。
商流(コト)の変化
  • 「商流」(コト)というのは「情報」であり、お客様やパートナーとの「コミュニケーション」である。新製品の情報などを伝える手段として、これまで一般的だったのはテレビCMや新聞・雑誌の広告、ダイレクトメール(DM)などがある。だがこれらを作るためには、多額の費用がかかる。例えば雑誌の広告なら数百万、テレビCMなら数億円の予算になることも珍しくない。そのためこれまでは「広告=大企業」が常識であり、中小企業や個人は広告宣伝から縁遠かった。
  • しかし、SNSなど新しいタイプの広告が一般化し、従来よりはるかに低コストで情報発信することが可能になった。例えばFacebookの広告なら、「大阪に住む」「猫が好きな」「40代の」「女性」だけにピンポイントで広告を出すことができる。費用は「数百円~」と個人でも負担できる金額だ。文字情報であれ映像であれ、その気になれば自分自身で制作できる。広告代理店に依頼する必要はないので、低コストかつスピーディに対応ができる。中小企業や個人は知名度が乏しいからこそ、自らの商品やサービスを認知してもらいたいという想いは強い。
  • 検索エンジンやSNSを利用したネット広告は、その商品への関心が深いユーザーだけにピンポイントで訴求することができる。これは究極的とも言える、ターゲット・マーケティングが実現するのである。これによって、従来は顧客を見つけるのが難しかったニッチ商品にも、事業化の道が開けてくる。先進国では消費の成熟化も進んでおり、大企業/マスマーケティングの時代は終わりを告げる。プロモーションの主役は、これから個人や中小企業へと移り変わっていく。
  • インターネットは双方向であり、その気になれば「一人一人異なる」(=パーソナルな)コミュニケーションも可能である。さらにブロードバンドでは、映像や音声を使った表現力豊かなコミュニケーションが可能になる。顧客との強いきずなが結ばれれば、競合他社に対して圧倒的に有利なポジションを築くことができる。ビジネスを持続し、成長させるためには、多くの企業が「顧客との関係の在り方」を根本から見つめ直すことになるだろう。
物流(モノ)の変化
  • 「物流」(モノ)の一番大きな変化は、「即日配送」が可能になることだ。2016年11月現在、アマゾンは東京23区・神奈川県、大阪府などで1時間以内の即日配送サービス「Prime Now」を開始している。米国では2016年4月現在、27都市で「Prime Now」を提供している。グーグルも即日配送サービスに乗り出しているほか、インスタカート(Instacart)など即日配送を専門に手掛けるベンチャーも登場している。米国の主要都市では、今や即日配送は常識となりつつある。今後2~3年のうちに、日本でも都市部では一般的な商品であれば、注文から2時間以内に届くのが当たり前になるだろう。
  • 「即日配送」になると大きく変わるのは、野菜、魚、肉といった生鮮食品や惣菜など、「食品」がターゲットに入ってくることだ。ネット販売と百貨店や家電量販店との競争は、年々激しくなっている。事実、アマゾンの日本事業の売上高は約1.1兆円(2016年)と、今や国内トップクラスの小売業者となった。その一方で、家電量販チェーンの業績悪化が著しく、地元で長く続いていた書店やCDショップが店を畳む例が相次いでいる。さらに今後、「即日配達」によって生鮮食品や日用品へ本格的な進出が始まると、その影響が地域のスーパーマーケットまで広がっていくことは必至である。さらに弁当や寿司、ピザなどの注文を受けるようになれば、既存の飲食店や宅配ピザなどとも競争が始まることになる。「即日配送」のインパクトは極めて大きい。
  • 近年は買い物に行きたくても身体が動かない、あるいは交通手段がないなどの「買物難民」と呼ばれる高齢者が増加している。団塊世代の多くは仕事の中でコンピューターを使った経験がある。これからはIT機器を普通に使いこなす高齢者が急速に増えていく。ネット通販の利用は高齢者にも今後広がっていくだろう。身体が不自由だからこそ、高齢者にはデジタルサービスを利用する必然性があるからだ。
  • クラウド環境の浸透によって、個人間での商取引「CtoC」は今後さらに活発になっていく。ヤフオク!の利用料金の無料化やメルカリの成長など、個人間取引を活発化させる環境は整いつつある。小口の物流ニーズは今後一層の拡大が予想される。
金流(カネ)の変化
  • 「金流」(カネ)の変化というのは、具体的には「精算・決済」や「資金調達」などである。精算・決済と言えば一般に広く使われているのは「レジ」だが、シンプルなものでも買えば数十万円はする。さらにクレジットカード対応となると、カード会社との個別契約が必要になる。どちらも導入には高いハードルがあった。
  • しかし最近では、普通の個人事業主であっても、コストや手間をかけずにレジを導入したり、クレジットカード払いに対応できるようになった。例えば、「Square」という周辺機器を使えば、スマートフォンやタブレット端末をレジ代わりに利用できる。手数料も3.25%(2017年3月現在)と低めに設定されている。これ以外にも類似サービスが既にいくつか登場している。
  • 決済分野ではこれから「マイクロペイメント」と呼ばれる少額決済が本格的に利用されるようになる。これは、端的に言えば1円単位の価値移動に対応できる決済手段である。音楽や映画、電子書籍など、1件当たり数十~数百円程度の少額決済では、現在のクレジットカードシステムでは対応が難しい。紙ベースでの手続きや専用リーダーを設置するなど、インフラの維持コストが重く、手数料率の低減に限界があるからだ。クレジットカードのシステムは今や時代遅れになりつつある。
  • これからは個人間取引(CtoC)やポイント付与などで、少額の決済需要が増えていくと予想される。現在のネット取引ではクレジットカードが広く使われているが、クラウドロニクスの広がりと共に、人手を介さないフルIPベースの決済システムを構築することが可能になる。マイクロペイメントは決済規模が小さく、直接的な収益はほとんど期待できない。サービス提供者にとっての一番の魅力は、膨大な購買情報が手に入ることだ。その人は何に関心があるのか? お金を払ってでも欲しいものは何か? これらのデータは、ネット販売では最も価値のあるものだ。できるだけ多くのデータを集めるために、マイクロペイメントでは「手数料無料」が基本になるだろう。
  • クラウドによって、「投資」も大きく変わり始めている。例えば、米国では「クラウドファンディング」というサービスが定着しつつある。これは自分が作りたい商品やサービスをインターネット上でプレゼンし、そのプランに賛同する人たちが資金を寄付する、という仕組みである。米国で最もメジャーなクラウドファンディング「Kickstarter」では、最近では数億円単位の資金調達も珍しくなくなった。2015年3月、スマートウォッチ「Pebble Time」がこのサイトで20億円以上を調達している。国籍は関係ない。2013年9月には、日本人のゲームクリエイターがここでゲーム開発資金を募集し、31日間で約4.6億円を調達することに成功している。資金調達は、金融機関と交渉することだけが選択肢ではなくなりつつある。
  • 「融資」では、ベンチャー企業や個人でも、クラウドを通じて資金を募ることが可能になる。「ソーシャル(クラウド)レンディング」サービスが徐々に浸透していくだろう。これはお金を借りたい人が、インターネット上で資金の使途や条件などを提示し、融資を募るものである。融資する側にとっては貸し倒れのリスクがあるものの、金融機関による中間マージンがないため、一般の預金よりも高い利回りが期待できる。米国では「Lending Club」というレンディングサービスが業績を伸ばしており、融資実績は2兆円を優に超える(2016年12月末現在で246億ドル)。クラウドによって、「お金を借りるなら金融機関」という常識が崩れていくことになる。
「クラウドロニクス・プラットフォーム」は3つの潮流の支配を狙う
  • クラウドロニクス・プラットフォームの価値は「顧客」である。クラウドによって、グローバル規模で10億人以上という、今までの常識では考えられないような膨大な数を集めることが可能になった。プラットフォーム保有企業が狙うのは、独自に「マーケットプレイス」を構築し、この3つのビジネス潮流を支配することである。
  • 広告一つを例にとっても、規模が10億人以上ともなると従来とは収益の桁が違う。従来のネット広告と違うのは、顧客の詳細なプロフィールが分かることだ。名前や連絡先はもちろん、何に関心があるのか? 普段どのような行動をしているのか? 何に対してどのくらいならお金を支払うのか? まで分かる。仮に広告主から1人当たり100円の広告出稿が取れれば、10億人なら1000億円の売上になる。しかもインフラ投資の償却以外、直接コストはほとんどかからない。ブロードバンドなので、コンテンツも映像や音声などを使って効果的なものが作れる。ユーザーがマーケットプレイスにとどまっていてくれるだけで、莫大な利益がもたらされるのである。クラウドロニクス・プラットフォームを支配する企業の社会的影響力と収益力は、空前絶後のものとなるだろう。